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嫌がらせあることを公式の組織内で実現しようとするときに、何人かの賛同が得にくい場合がある。 個人の利益を大幅に増進するが、不正や非倫理性が絡んでいる場合である。
そうしたときに使われる手段が、嫌がらせをちらつかせた脅迫である。 「将来浮かび上がれないよ」「俺に刃向かってもいいのか」というような脅迫がなされる。
また実際に賛同が得られないと、徹底的な嫌がらせが行なわれる。 組織のなかには嫌がらせをしようと思えば可能な手段が無数に存在する。
すでに強調したように、組織は成員間の相互依存関係の上に成り立っている。 しかもこの相互依存関係は、組織成員の自由裁量や、「常識」ある人間を前提とした規則などを基礎としている。
嫌がらせには、この相互依存関係が悪用される。 昇進問題など、あらゆる手段が使われる可能性がある。

プライバシーが侵害されるかもしれない。 もし嫌がらせを受ければ、その個人は仕事や生活に大きな支障が生じるであろう。
人間は単に金銭的報酬を得るためにのみ労働するわけではなく、自己実現などの高次の欲求も満たそうと、嫌がらせは大きな心理的費用を引き起こす。 そのため、嫌がらせをちらつかせた脅迫を受けたり、それを予感したりすると、個人は不正な要求に賛同してしまうことが多い。
不祥事発生の一因である。 嫌がらせやそれをちらつかせた脅迫は、きわめて陰湿である。
嫌がらせや脅迫を行なう個人はインフォーマル・グループに属する場合がほとんどなので、集団を背景にして少数の個人を物理的・心理的に攻撃する。 人間関係においてこれ以上陰湿なことは想像しにくい。
個人の持っている公式組織に対する倫理性を破壊する。 個人の信条を蹂躙する。
 それを行なう者は、そうすることによって、公然としにくいことも実行可能にすることができる。 公の場に出したくない情報もそれによって隠蔽することができる。
嫌がらせは終身雇用制を逆用したものである。 二重に逆用している。
自由競争市場のように労働移動が容易な場合は、嫌がらせを受けた個人は離職して、他企業で同等な職を簡単に求めることができるであろう。 多くの企業、特に同類の企業が終身雇用制を採用していれば、離職は容易でない。
そのために嫌がらせが効果を持つ。 嫌がらせをする人間はこれを勘定に入れる。

労働移動が容易であれば嫌がらせの効果がないので、嫌がらせ自体が生じないであろう。 さらに集団による嫌がらせは、終身雇用制が生み出すインフォーマル・グループを基礎としている。
終身雇用制がなければ、インフォーマル・グループが発生しにくくなり、それによる嫌がらせも生起しにくいであろう。 脅迫や嫌がらせは、信頼のストックや信頼関係を形成しようとする意欲を、一瞬のうちに破壊する。
それらは信頼を根底から覆し回復不能とするとともに、不信感を増殖させる。 一見脅迫に応じたようにみえる個人でも、内心には不信感が形成ざれ組織の長期的効率性は大幅に低下する。
企業や公的機関で不祥事が続発したのと相前後して、学校での「いじめ」による自殺も続発した。 B氏・S氏・Y氏によると、「いじめ」という言葉が現在のように使われはじめたのは1870年代の終わり頃で、1994年以降の時期は「いじめ」の第3段階に分類できるという。
第2段階は80年代の中ごろに始まり「いじめ」が構造化して、いじめる側の顔がよく見えなくなった。 第3段階ではこの構造が確立したという。
嫌がらせと「いじめ」はほとんど同根である。 すなわち、両者はかなり似た要因によって生起し、似た現象を呈する。
もちろん、「いじめ」では遊戯性が強い(面白いからいじめる)のに対し、職場の嫌がらせでは個人あるいはインフォーマル・グループの利益がもっと重要であろう。 「いじめ」の最も基本的な要因のひとつは、学校教育の「終身雇用制」である。

転校やクラス変更のできない状態に縛り付けられた生徒の間に「いじめ」は生起する傾向がある。 B氏・S氏・Y氏は、「いじめ」に対して「複数の者が、1人ないし少数の複数者を固定的に標的にして、比較的長期間にわたって繰り返し継続的に行なわれる暴力現象がいじめである」という定義を提案している(警視庁保安少年課の定義に近い)。
この定義のなかで「比較的長期間にわたって繰り返し継続的に」という部分がきわめて重要である。 第一章と第二章でみた「繰り返しゲーム」を想起させる。
複数の加害者が長期間「協力」して、長期間にわたって場を同じくする個人に暴力を加える。 もうひとつ重要な点は、「いじめ」が複数(多数)者対1人というような構造を持っていることである。
複数対複数の場合でも、いじめるほうはいじめられるほうより圧倒的に多数である。 いじめる側は、数によって自己の安全性を確保する。
「いじめ」の陰湿性の多くはここに由来する。 普通の人間であれば、1人や2人を標的とした多数の攻撃をおぞましい行為であると感ずるであろう。
多くの文化はそうした人間関係を公正としてこなかった。 スポーツ(文化の一面)で、はじめから少数が多数と戦う種目をみることができないのは、その間接的な証拠である。
裁判では犯人であることが自明な者にすら、弁護人が付くことになっている。 もし生徒が学校間を自由に移動することができたり、場合によっては正規の学校以外で教育を受けることができたりすれば、同一者に繰り返して暴力を加えることは物理的に困難になろう。
したがって、今日のような「いじめ」の大半は消滅する。 学校側は転校やクラス変更さえ承認しようとはしない。

それどころか、冒頭の不祥事と同様に、学校や地域は「いじめ」の事実を徹底的に隠蔽しようとする。 クラス変更を希望したのに学校から許可されず自殺した生徒もいる。
自分の家が焼ければ引っ越して転校できると考え、自宅に放火することを企てた生徒もいる。 わが国には就学校指定制度があって、教育委員会が子供の通うべき小中学校を指定している。
最近になってようやく学校選択の弾力化が議論されるようになった。 就学校を変更したい場合は保護者が教育委員会に申し出て、必要が認められれば変更可能とするという案も一部から出されているが、必要が認められればという点がいかにも日本的である。
「いじめ」にあった者だけの変更が認められれば、住所変更を伴わない転校は「いじめ」の被害者であることのシグナルとなり、その個人は転入校で再び「いじめ」の標的となる可能性がある。 すべての児童・生徒に転校が自由であってはじめて、「いじめ」を大幅に消滅させることができる。
現在の日本では、転校による教育上の不利益はほとんどないであろう(コミュニティが維持できるかどうかの問題もあるが、ここでは議論しないことにする)。 筆者が居住したオーストラリアの都市の小学生は、通学する学校を自由に選択していた。
学期の途中でさえ転校する者がいた。 もちろん入学から卒業まで同一校に在学する者もいる。
(中学校についても、同様な発想に基づいた制度が採られているはずである。 )ニュージーランドでも、学校選択にはかなりの自由度があった。
もちろん就学校指定制度があれば必ず「いじめ」が発生するわけではない。 その制度と個人の心理的要因とが結合して発生する。


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